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読んでひんやり…稲川淳二の大学生怪談「タイムカプセル」(後編)

  • 大学生活
  • 2017.08.07

怪談でおなじみの稲川淳二さんに、大学生が主人公のお話を語ってもらいました。後編では、主人公たちが、亡くなったウチダシゲコの家へ。そこで見たものとは…? そして、恐怖のクライマックスへ…。

前編はこちら


タイムカプセル(後編)

稲川淳二:翌日、みんなでウチダシゲコの家へ行った。お母さんがとっても快く招き入れてくれて、で、みんなそろって仏壇に手を合わせた。
帰ろうとすると、お母さんが「もし良かったらあの子の部屋へちょっと顔出してもらえません?」って言った。
「昔はね、お友達が来て結構楽しそうに話したりね、笑ってる声が聞こえたんだけども、しばらくぶりに皆さんが顔を出してくれたらあの子もきっと喜ぶと思うわ」と。

ウチダシゲコの部屋っていうのは2階なんですよね。階段をトントントンと上がっていった。
お母さんがドアの前に立って、ノブをつかみながら「この部屋ね、お父さん以外の男の人が入るの初めてなんですよ。まあもっとも、あの子が生きていたら今頃は、ボーイフレンドが遊びにきていたかもしれないわね」って言った。
それを聞いたときに、カノウ君はなんだかヒヤァ〜ッと寒々しいものを感じた。

「カキッ、ギイ…」
ドアが開いた。部屋に入ってみると、なんだか妙におかしい感じがした。
というのはね、この部屋、つい今しがたまで誰かいたような、そんな感じがする。
普段誰かがここで生活しているようなそんな感じがしたんですよね。
ふと見ると、カレンダーが新しい。あれ?と思って見ていると、それに気づいたお母さんが、「ええ、カレンダーはちゃんと換えてますよ。あの子が亡くなった、そのときのまんまずっと時間が止まっているなんて耐えられませんからね。あの子の姿はなくても、あの子にはここでずっと生活をしていてほしいんですよ。あの子はここで生きているんです」

お母さんが言うとね、カノウ君のすぐ隣のあたりで妙に気配がして、息づかいが聞こえた。
ふとカノウ君、無意識に机の引き出しを引いてみた。
そこには写真があった。自分が写っている写真で、自分の部屋で見つけたのと同じ写真が。
…いや、ほかにもある。自分が写っている。どの写真もカメラの方を向いてやしない。こっそり撮ったような写真ばっかり。
カノウ君の頭にふっとある情景が映った。それは、こっそりと物陰から自分の方にカメラを向けてシャッターを切っているウチダシゲコの姿だった。なぜかゾクッとした。

「じゃ、失礼します」
みんなウチダシゲコの家をあとにした。夏休みはまだずっとあって、本来だったらカノウ君もしばらく実家にいる予定だったんですが、なんだかいたたまれなくて東京へ帰ってきちゃったんですね。
自分は帰ってきたけど、地元の友達はまだ実家にいて、出かける予定もないから部屋でぼーっとしてた。

そこへ、マエダから電話があった。出てみるとマエダがね、交通事故を起こして今病院に入院しているっていう。ハンドル操作を誤って、電信柱に激突したんだけれども、まあ幸いたいした怪我もなく、命に別状がないということなんですよね。
いったいどうしたんだって聞いてみると、
「それがさ、運転してたら、急に目の前に女が立ったんだよ。慌ててハンドル切ったらこのざまだよ」っていう。

「お前、その女ひいたのか?」
「いやあ、女なんて、影も形もなかったよ」
「…え?」
「それでさあ、お前、この間の神社のこと覚えているか?」
「ああ」
「俺気になったからお前に電話したんだよ。お前も気をつけろよ。…あいつかもしれないからな」

電話が切れるとね、なんだか無性に孤独感というか恐怖感が一気に襲ってきたんで、
「もうこの部屋にいるのはやめよう。今日は外に飛び出して、人がたくさんいる明るいところで夜更かしして、明日帰ってこよう。この部屋にいたくない」と思った。

気がつけばもう外は暗くなっている。
明かりをつけようとしたけど、「待てよ。もし今、明かりをつけたら、もしかするとどこかにあいつがいてこっちを見ているかもしれない」
そう思ってちっちゃい明かりをつけた。

何となく気になって、部屋の窓のところへ行ってみた。
2階の自分の部屋から外を眺めてみると、もう夜の闇になってる。
下の路地を見ると街路灯がついていて、女がぽつんと立ってる。
「なんだろう?」
見ていたら、女がぐーっと顔を上げてこっちを見上げた。
「ん?」街路灯がその顔を照らした瞬間、
…それ、ウチダシゲコなんです。
「あいつ、来てたんだ」
見てると女はそのままじーっとこっちを見上げているんですが、やがてアパートの玄関の方へトットットッと歩んでくる。
もう逃げだそうと思っても間に合わない。慌てて窓に鍵をかける。
玄関へ行ってドアへ鍵かける。で、押し入れを開けて中から布団を引きずり出すと、それを頭からかぶって部屋の隅の壁のところにビターっとくっついて目をつぶっていた。

「コツッ、コツッ、コツッ」
…階段を上がってくる靴音がする。
「わー帰ってくれ、おい帰ってくれよお。頼む、帰ってくれよお…」

「コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、コツッ、コツッ」
通路をだんだんだんだんこっちへ歩いてくる。
「コツッ、コッ…カッ」
自分の部屋の前で止まった。
「頼む帰ってくれ。帰ってくれ頼む帰ってくれ…」

「トン、トン、トン」
戸を叩く。
「うぅ」
「トントン、トントントン」
「うう、帰ってくれ、帰ってくれよお、頼む帰ってくれえ」
「トントントン、ドンドンドンドンドン!」
「ううう、帰ってくれえ、頼む帰ってくれえ」
「ドンドンドンドンドンドンドンドン!ドンドンドンドン!」
「カチャッ、カチャッ、カチャカチャ」
ドアノブを回してる。
「うぅ」
「カチャッカチャッ」
「頼む帰ってくれ、帰ってくれ、帰ってくれ、帰ってくれ!」
「カチャッ、カッ」

…ぴたっと音が止んだ。
「ん?」布団の中で目をつぶってじーっと耐えた。何の音もしない。しーんと静まっている。しばらくの時間が経った。
「はあ、どこか行ったのかなあ」
布団の中で目を開けた。布団の隙間から部屋の中をのぞいてみると、いつもと変わらない部屋の中。布団から出た。
「ハアハァ…よし、今のうちにここを抜け出して、人がたくさんいて、明るい場所へ行こう。そうしよう、さあ」
と思ったけれども、まだどこかからじーっと彼女が見ているような、そんな気がしてしょうがない。

「…待てよ」
窓のところへ行ってみた。外を見るともう黒い闇になってる。下の路地にも誰もいない。街路灯がぽつんと点いているきり。
「いない…。よし。部屋から走っていこう、よし!」
そう思いながら2、3歩下がったとたんに
「うっ!」
体がまるで張り付いたようにその場所から動けなくなった。
「ううう!」
ガラス窓の向こう、外の黒い闇の中から白い顔がこっちをじーっと見てる!
「いた!あいつ、いたじゃないか!」
ここは2階なのに、ウチダシゲコは白い顔でこっちをじーっと見ている。
窓から離れようとするけど、体が動かないんだ。

「うう!」
白い顔がだんだんだんだん近づいてくる。一生懸命逃げようとするがどんどんどんどん近づいてくる。
「うわぁぁぁ」
少しずつ後ずさりをした。ガラス窓に部屋がうっすら映り込む。自分が映った。ウチダシゲコの白い顔が映ってこっちへだんだんだんだん近づいてくる。
「ううう!」
自分の体がゆらっと揺れた。瞬間、女の姿がふっと消えた。

ふっと元へ戻ると、女が白い顔をして立っている。
その顔が、にたっと笑った。
「ふふ、うふふふふ、うふふふふふふ」
…笑い声が後ろでした。
「うわっ、違う!あいつは、ガラス窓に映り込んでいるんだ!ウチダシゲコは、自分の後ろにいるんだ!あいつはもう、部屋の中に入ってたんだ!」

動けずにじっとガラス窓を見てる…暗い闇が見えて室内が映り込んでる。
白い顔がだんだんだんだん背後から迫ってくる。
「うぅ、うぅぅ…」
だんだんだんだん近づいてきた。
自分の肩越しにウチダシゲコの白い顔がこっちをじーっと見ながら寄ってくる。「うぅ…勘弁してくれ、助けてくれ」と言うと、スーッと腕を回してきた。
肩のあたりがヒヤ―ッとした。

「うわあ…」
もう片方、腕がずーっと伸びてきて、後ろからぐっと抱きついてくる。
白い顔がずーっと自分に寄ってきた。
「うぅ…助けてくれ、勘弁してくれ」と思っていると、自分の耳元にウチダシゲコがグーッと顔を寄せてきて、小さくささやいた。

「お願い…死んで

瞬間、カノウ君の意識がぷつっと切れた。
気がついたらカノウ君すぐに、マエダのとこへ電話を入れたわけだ。そして、今までのこの一部始終を話して聞かせた。

その2日後、彼は亡くなりました。東北自動車道で、事故に巻き込まれて死んだんです。それは、故郷の秋田へ帰る途中での出来事でした。

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