ホーム働き方【Career Interview】作家 朝井リョウさん 大学を卒業したら就職するのが当たり前だと思っていた

【Career Interview】作家 朝井リョウさん大学を卒業したら
就職するのが当たり前だと思っていた

  • 働き方
  • 2017.04.17
プロフィール
朝井リョウさん
大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。会社員時代の2013年には『何者』が直木賞に輝き、戦後最年少受賞者として注目を浴びる。2014年、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。6月に、会社員時代のエピソードを含めたエッセイ集『風と共にゆとりぬ』(文藝春秋)が発売予定。

大切なのは、‘世間の正解’より、‘自分の正解’を知ること

大学を卒業したら就職するのが当たり前!?

子どもの頃から小説家にあこがれていた私は、小学生の頃から密かに小説の投稿を続け、大学2年生の時についに新人賞をいただきました。夢のデビューとなったわけですが、私にとって「小説家になりたい」というのは、子どもが「宇宙飛行士になりたい」なんて言うのと同じ次元のこと。デビューしたところで現実味はなく、大学を卒業して就職することに関しては太陽が東から昇って西に沈むことぐらい当然のことでした。だから、周囲の友達と同じく、大学3年生の冬から就職活動をしました。家族や各社の担当編集者はむしろ、絶対に就職しろ、と言っていましたね。

とはいえ小説は書き続けたいと思っていたので、就職先の条件は、「帰宅してから小説を書く時間を確保できる職場」ということでした。つまり消去法で探していたわけですが、3つ年上の姉に「40年いるかもしれない場所なんだから、そこで働く自分の人生を『好き』って思えるところに就職したほうがいい。消去法で選ぶべきではない」と言われて、はっとしたんですよね。

おかげで、最終的にはそこで働く自分の人生を「好き」だと思える企業に就職することができたものの…。同僚が夜は同業他社と会食、週末は得意先の人とゴルフに行ったりしているなかで、私は仕事を終えればすぐ退勤して、朝と夜と週末は小説に全力を注ぐ毎日。それが直木賞を受賞したことで、「あいつは仕方ないね」と許される雰囲気まで生まれ、徐々に後ろめたさを感じるようになっていきました。そんな矢先、会社との両立が難しい小説の企画が立ち上がったのをきっかけに退職を決めたのが2015年の春のことです。退職後、その企画はなくなってしまったんですが…。

小説家という仕事とは…?

結果的に今は専業作家という形になっているのですが、子どもの頃から好きでやっていたことが職業になり、そこにお金と社会的な評価がつくことは今でも不思議です。ただただ自分が書きたいことを書いているだけの今は、一つ一つの仕事に対して社会的意義を考える間もなく忙殺されていた会社員時代に比べて、「この小説を書くことになんの意味があるんだろう、そもそも本ってなんの意味があるんだろう」なんて考えてしまいます。その反面、「小説とは、社会をマーケティングしたうえで書かれるべきではなく、ただただ個人的な好奇心のみから生まれるべきものだ」と思う自分もいたりして、小説家という仕事についての答えはまだ見つかりそうにありません。

社会人を経験してわかったこと

ただ会社員を経験して気づいたのは、自分がどんな人間なのか、自分にとっての正解は何なのかを知っておくことの大切さです。というのも、実は会社に入ったばかりの頃に、やはり姉から「最初の3か月間で“どういう人か”が決まるから、小説を書きたいなら、最初に3か月で誘いを断る人間だという印象を与えたほうがいい」と助言されたんです。先輩からの誘いを断る新社会人って社会的には不正解かもしれないけど、私は自分にとって絶対必要な“書く”時間を確保できたわけです。自分が、「周囲から好かれる可能性は低くても、自分を保つことで健康的に生きていけるタイプの人間」なのか、「自分を保てなくてもいいから、周囲に好かれていたほうが健康的に生きていけるタイプの人間」なのか、学生時代のうちに知っておくことは大切だと思います。どちらが正解ということはないんです、自分にとっての正解がわかっていればいいんです。

「学生のうちに旅や読書をしておくといい」の真意

学生の皆さんは、よく「学生のうちに旅や読書をしておくといい」なんて言われることがあると思います。その理由を明確に答えられる大人はどれくらいいるでしょうか。私なりに出した結論は、やはり、自分がどんな人間なのか知ることができるから、です。なぜなら、例えばトイレに駆け込む緊急事態に陥ることが多い私の場合でいうと、学生時代に何度か海外旅行を経験したことで、自分には旅で得られる稀有な経験より何より「自由にトイレに行ける環境」が一番大事だということを痛感できました(笑)。また、本を通して、「こういう人は絶ッ対に許せない」「この人は悪人だけど、不思議と愛せる」なんて、現実を生きるだけでは知ることができなかった自分の好き嫌いの尺度もわかるようになりました。

ただ、単純に、あらゆることを経験することで「好き」だと思えることを増やしていくことは大切だと思います。大人になるほど、誕生日も夏休みもそれほどビッグイベントじゃなくなって、待ち遠しいことがどんどん減っていく。そんななか、バレーボールやダンスなど、仕事以外にもわくわくすることに出会えている私はとてもラッキーだなあとも思っています。

総じて、とにかく大切なのは自分自身を知ること、自分の正解を知ることだと思います。「自分は女なんだから女子力高めなきゃ!」とか「自分は男なんだからバリバリ働かないと!」みたいな、世の中で正解だと思われていることの全てが、あなたの正解ではありません。学生の今だからこそ自分とは異なるものにたくさんぶつかって、その結果、思わぬ自分の輪郭を知ってください。

朝井さんに聞きました!

ズバリ!就職活動とは?
  • 就活を経験して感じたのは、人間の総合力というよりも、「うまくしゃべれるかどうか」を見られるようなものだなあということでした。つまり、教科の一つのようなもの。内定をもらえないと全人格を否定されたような気持ちになるかもしれませんが、就活を教科の一つと捉えると、不合格が続いたとしても前向きな気持ちに戻りやすいのではと思います。
就職活動のエピソードを教えてください!
  • あるマンガで「緊張している時は客観性を失っている時」というエピソードを読んで以来、緊張対策として、自分を客観視するための工夫をしていました。例えば、ヘンな柄のパンツをはいていく作戦。「真面目な顔で話してるけど、実はヘンなパンツ履いてるんだよね」なんて考えるだけで、緊張は吹っ飛んでしまうことが多かったです。

朝井リョウさんの「就職活動」を題材にした小説

2013年に直木賞を受賞し、映画化されたことでもおなじみ!就職活動を通して、自分とは“何者”なのかを模索していく様をリアルに描いた物語。そのアナザーストーリー集『何様』も発売中。

作品名何者
価格637円(税込み)
出版社新潮社
作品名何様
価格1728円(税込み)
出版社新潮社

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