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研究File.01 生物多様性

生物多様性✕ゴリラ研究者

【Profile】京都大学 総長:山極壽一先生

人類進化論が専門。野生のサルやゴリラの生態・社会のありかたについて調査し、それを通して、私たち人間がはるかな昔、「初期人類」と言われるころに、どのような社会をつくりどのような生活をしていたのかを探ろうとしている。1970年代後半から30年以上にわたり、中央アフリカの熱帯雨林でゴリラの調査を行い、ゴリラのような熱帯雨林にすむ動物と人間が共生する道を模索してきた。ゴリラとの共存をめざすコンゴの現地NGO「ポレポレ基金(ポポフ)」では、設立当初からのアドバイザーとして活動。日本支部代表をつとめる。

Q.1 野生のゴリラをどのように調べるのですか?

<ゴリラを知るために“ゴリラ付け”する>

私は人類学者として、ヒトがサルや類人猿と分かれたころの社会を知ろうとゴリラの社会生活を調べています。1978年からアフリカ・コンゴ民主共和国の熱帯雨林で調査を始めました。ゴリラの群れに一日中ひたすらついて歩いて、群れのメンバーを見分けて名前をつけ、仲間とのつきあい方を記録します。群れの中のゴリラの様子を知るためには、少しずつ距離をつめて群れに受け入れてもらう必要がありますから、ゴリラの出すあいさつ音やしぐさをまねてコミュニケーションをとります。そうしないとゴリラが怒るからです。
そうやってゴリラの見ているものを見、ゴリラの感じていることを感じるのです。ゴリラの群れの中にいると、私は人間のままではいられずゴリラになります。ゴリラの目から人間の社会や自然環境を見るようになりました。

<熱帯雨林のなかを食べ歩くゴリラたち>

ゴリラの群れについて歩いた結果、ゴリラは熱帯雨林の中でたくさんの生物と関わりあって生活していることがわかりました。非常に広い範囲を小規模な群れをつくって歩き回り、年間200種を超える果実や植物、昆虫を食べ、毎日違う場所に植物を敷き詰めたベッドをつくって眠ります。残されたふんには甲虫・フンコロガシがつき、消化されなかった植物の種が新たに芽吹きます。
人間もかつてアフリカの熱帯雨林に住んでいましたが、今は自然の外に出て人工的な環境の中で生きています。でも人間の心身は熱帯雨林に住んでいた祖先とほとんど変わらない。指先が柔らかく器用なのはキーボードを叩くためではなく、熟れて食べごろになった果実を選ぶためです。そういった古い環境に適応した心身と現在の環境のギャップから様々な問題が生じている。ゴリラの視点で人間社会を見ると、それが感じ取れます。

Q.2 ゴリラは絶滅しそうなのですか?

<内戦によって激減したゴリラとゾウ>

コンゴでは1996年と1998年に内戦が起き、私が長く調査してきたカフジ・ビエガ国立公園にも難民や敗走した兵士が流入してきました。彼らは食糧を得るため森を焼いて畑を作り、大型の動物たちを殺して食肉にしてしまったのです。ゴリラの数は半減しゾウは絶滅に追い込まれました。
森が焼かれたところから、つる性の植物が繁茂するようになりました。このつる性植物は、それまではゾウが食べたり、ゾウやゴリラが食べ物を探すときに引きちぎったりして適度に除去されていました。ところがゾウやゴリラがいなくなったため、つる性植物が樹木の実生や灌木を覆って日光を遮り、枯死させてしまうようになりました。この事態は、その後自然回復しましたが、森の植物同士の関係が変わったことも考えられます。ゾウやゴリラは果実の種子を運んで、植物の分布を広げる役割も果たしています。彼らの影響が弱まったことで、別の植物の繁茂が推進されることになり、森の生態系が大きく変化していく可能性があります。

<ゴリラが森を守っていた>

このような変化が起こったことで、ゴリラやゾウのように食物を求めて森の中を動き回り広範囲に影響を与える大型動物が、熱帯雨林の生態系を安定させるという意味でも非常に大事な役割を果たしていたことがわかります。
熱帯雨林は生物たちの微妙なバランスの上に成り立っていますが、それが崩れはじめているのです。このままでは、カフジ・ビエガ国立公園では大きな樹木が育たなくなる。そうすると鳥もこなくなるし、樹木性のリス、ムササビ、サルたちがすみかを失ってしまいます。ゴリラは若干増えてきましたが、早急にゾウが低地からやって来れるように緑の回廊*をつないで、森に及ぼす人間の悪影響を排除しないとまずい事態になっています。

* 緑の回廊:
森林生態系に大切な役割を果たす野生動植物の多様性の保全のために、その移動経路を確保し生息・生育地の拡大と交流を図ることを目的として、森林生態系保護地域などの保護林どうしをつなぐために設定した森林緑地帯のこと。森林が連続性を持って続くことから回廊(コリドー)に見立てた。

Q.3 ゴリラを守るために何ができるのですか?

<ゴリラの住む森は追いつめられている>

現地ではいまや国立公園のすぐ際まで畑です。国立公園には立ち入りが制限されているので、近くに住んでいる住民、特に子どもたちはその多くがゴリラを見たことがありません。いくらここの自然が貴重であるといっても、そこを見たことがなければ守ろうという意識は生まれない。
そこで、私がアドバイザーをしている「ポレポレ基金」が最も力を入れているのは、子どもたちへの環境教育です。森に入ったこともない子どもたちに、実際に熱帯雨林を見てもらいながら知識を伝えます。やがて子どもたちがアフリカの自然の豊かさの語り部となり、世界中から人々が集まってくるといい。ゴリラはそのための分かりやすいシンボルなのです。ゴリラを守ることが豊かな未来につながると地元の人たちに分かってもらえれば、政治の混乱があっても保護区を維持できます。

<ゴリラが私たちに教えてくれること>

進化の過程からみると、サルとゴリラより、ゴリラとヒトのほうがずっと近く、ゴリラは人類にとって「隣人」にあたります。もしゴリラやほかの類人猿が絶滅したら、人類は自分たちの起源を知る手がかりを失い、ひとりぼっちになってしまうでしょう。
熱帯雨林はゴリラと私たちの故郷であり、未知のことがたくさん詰まった宝箱です。熱帯雨林を破壊するのは、人類が火星に移住したからといって地球を滅ぼしてしまうようなもの。かけがえのない故郷を失い、自分たちの由来を知らないまま、人工的な機械の国に住みたいでしょうか。そうではないはずです。人間の視点を離れゴリラの目で熱帯雨林を見ることは、私たちにとってほんとうに快適な環境とは何か、改めて考えるきっかけにもなります。我らが隣人・ゴリラの住む森には、そのためのヒントがたくさんあるに違いありません。

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