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マネジメント改革を推進し
「世界屈指の研究大学」へ

人類の幸福に貢献する「勇気ある知識人」を育成

名古屋大学
総長 松尾清一

出典:『Between』2016年12月-2017年1月号

誰もが高等教育に接続できる社会へ

人口減少期にあり、少子高齢化が進む日本では、教育は極めて重要な意味を持っています。最も重要なのは、自分も含めた人々の幸福や持続可能な社会の発展に貢献できる人間になろうという「マインド」を醸成することです。

一方、日本が学校教育にかける予算は、OECD加盟国の中で最低レベル(*1)。教育はすぐに結果が出るものではありません。しかし、長期的視野に立てば、国家の根幹をつくる教育への予算は拡大すべきです。大学進学率もOECD加盟国の中では高くありません(*2)。専修学校等に通う人もいますが、貧困家庭の増加により、最初から高等教育への接続を諦めている人も増えています。

少子高齢化に危機感があるのであれば、国の責任で全ての子どもに高等教育を受けさせた方がいいでしょう。お金はかかりますが、きちんと教育を受けて、きちんと働くようになれば、税収として返ってくるはずです。

重要なのは、教育は個人への投資でなく、国家や社会への投資だとの発想転換です。すべての国民が教育の力によって個々の才能を開花させ、社会で活躍できるようなしくみにすべきだと考えています。

*1 公財政教育支出の対GDP比は、OECD加盟国平均5.6%に対し日本は3.8%。高等教育段階に限っても、OECD加盟国平均1.4%に対し日本は0.8%。いずれも加盟国中最下位。(2011年、OECD『図表でみる教育』2014年版より)
*2 大学進学率は、OECD加盟国平均58%に対し日本は52%。(2012年、OECD『図表でみる教育』2014年版より)

育成人材像の明確化と3つのポリシーの融合

もちろん、高等教育機関の努力も重要です。高等教育には、リーダーの育成だけでなく、技術者の育成、研究者の育成、社会の中核を担う人材の育成など、さまざまな役割があります。各大学はそれぞれに役割と目的を明確にした人材育成を行っていくべきでしょう。

それには、どんな能力を備えた学生を卒業させるのか(DP)、そのためにどんなカリキュラムを編成しているのか(CP)、その教育にふさわしい学生をどう選抜するのか(AP)、の3つのポリシーを融合させることが求められます。

しかし大学は、すぐに役立つ人材育成や研究だけを行うところではありません。ノーベル賞に代表されるように、数十年後の人類に貢献できるような基礎研究にも力を入れるべきですし、各国に親日家を増やし、国際関係を良好に保っていくための留学生教育も必要です。こうした教育研究活動は、まさに高等教育機関だからこそ可能な社会貢献と言えるでしょう。

改革視点は「国際化」と「社会との連携」

本学は現在、「名古屋大学松尾イニシアティブ」改革のさなかにあります。最終的な目標を「世界屈指の研究大学」と定め、そこに至るために、2020年までに達成すべき目標を5つ掲げました。

第1は、国際標準の教育です。すでに科目のナンバリングは終了しており、今後は英語の講義を増やすと共に、クォーター制を導入し、留学しやすい環境の実現を図ります。また、アデレード大学(豪)や、エジンバラ大学(英)など、海外の大学とのジョイント・ディグリー・プログラムも積極的に推進し、教育の質を高めます。

第2は、世界最先端の研究です。本学からは6人のノーベル賞受賞者を輩出していますが、引き続き世界トップレベルの研究拠点を展開しながら、「とがった」研究者の育成をめざします。

第3は、キャンパスの国際化です。現在、外国人留学生は全学生の14%相当の約2400人いますが、2020年までに3000人を受け入れる予定です。このため、アジア10か所を含む世界12か所の海外事務所を拠点に、海外ネットワークの強化を図っています。

第4は、産学官連携のさらなる推進です。世界標準の産学官連携スタイルの構築をめざし、「指定共同研究講座」を新たに設けました。企業に研究者の給与や諸経費を全て負担してもらう代わりに、本学は進捗のチェックを確実に行って、成果の出る研究を行っていきます。

これら4つの目標では、「国際化」と「社会との連携」が新たな視点です。どちらも、従来の教育、研究の領域に、海外と実社会という外部からの視点を加えることにより、教職員のマインドの転換を促しているのです。

改革推進に不可欠なマネジメント改革

第5は、こうした改革を進めていくのに不可欠なマネジメント改革です。とりわけ重要なのが財務経営の根本的な見直しです。総長就任直後から、外部の専門家も入れた財務のワーキングチームを設立し、長期的な財務計画の検討を始めました。寄付による基金設立、競争的資金の獲得、企業との本格的な連携など、多彩な財源の確保に努めています。

あわせて組織改革も行い、情報学部を次年度に新設のほか、大学院や研究所の統廃合も含んだ、全学的な組織の見直しをします。構成員についても、ダイバーシティ化を進めています。ちなみに、本学はジェンダー平等をめざす国連の運動「HeForShe」に参加する世界10大学の1つです。

大切なのは構成員とのコミュニケーション

改革を進めるうえで、リーダーシップは重要です。しかし、大学では企業がやるようなトップダウンではうまくいきません。

改革実現の鍵を握るのは、構成員のモチベーションです。総長就任以降、役員と部局巡りを続けており、各部局メンバーの話をよく聞いたうえで、全体の最適化を行っています。私はコミュニケーションを重視し、精力的に行動することがリーダーシップだと考えています。このようなプロセスを経て、外部に示したビジョンを、確実に実現させていきます。

近年は大学の世界ランキングが話題ですが、ランキングを上げるための改革では本末転倒です。ただ、「努力のないところにランキングの向上はない」わけですから、掲げた目標をスピードアップして実行していくつもりです。

松尾清一まつお・せいいち
1950年生まれ。1976年名古屋大学医学部卒。1981年医学博士(名古屋大学)。ニューヨーク州立大学研究員を経て1986年名古屋大学医学部助手。2002年同大学院医学研究科教授。附属病院長、副総長を歴任し2015年より現職。専門は腎臓内科学。

取材・文/仲谷宏 撮影/加納将人

2020年 大学入試改革特集