地域の潜在的需要に対応する
新たな大学ブランドの創出

医療系を中心に、地域の人材ニーズに応える大学へ

いわき明星大学
学長 山崎洋次

出典:『Between』2016年8月-2016年9月号

大学の機能に応じた高等教育施策が必要

わが国の高等教育は、法的には1つのものとしてくくられていますが、実際には、高度な教育・研究を行っている大学と、高校の延長線上で一般職業人教育を行っている大学が混在しています。そこで近年は、大学を機能や目的に応じて類型化するような施策が打ち出されるようになりました。しかし、補助金や助成金の審査基準はどの大学に対しても一律なため、結果的に画一化に向かうなど、混乱した状況が続いています。

例えば、現在声高に叫ばれているグローバル人材育成では、世界ランキングの上位にいる大学と、本学のような地域に根ざした職業人の育成を目的にする大学では、その方向性が異なります。

国立大学では、機能分化や類型化が推進され、一定の政策誘導が行われています。しかし、さらに日本の大学全体を機能や目的によって区分し、それぞれの土俵の中で切磋琢磨することが、今後は必要だと考えています。

生き残るためには独自ブランドの確立を

少子化への対応も重要です。日本の大学進学率は先進30か国の中では低いため、社会人入学や多様な入試制度によって、進学率を上昇させる余地は十分あるとの見方もあります。しかし、この考え方は根本的に間違っていると思います。

なぜなら、これは日本の社会制度と社会通念を無視した考え方だからです。大学教育への期待や尊敬はあるにせよ、一旦社会に出てから大学に入学して勉強するメリットを、日本社会全体が共有しているようには見えませんし、そうした学びを支援する制度も整備されていません。「大学は高校を出てすぐに入るもの」という固定観念も根強く残っています。

また、現状でもかなり多様な入試が行われています。それでも進学率が伸びないのは、経済的な問題のほかに、日本の社会構造がもたらす、大学に対する意識が大きく影響しているのだと思います。

進学率上昇が見込めないなら、入学者確保をめぐる大学間の競争は、避けようがありません。生き残るには、受験生やその保護者に選ばれる魅力が必要であり、各大学は、自らが置かれた諸条件の中で、すみ分けや差別化を行い、独自ブランドの確立に向けて努力していく以外、方法はありません。

薬学部設置を起点に資格に強い大学へ

本学は、福島県いわき市に創立以来、地域貢献を柱とした教育・研究を進めてきました。ところが、東日本大震災による原発事故の影響で、存続が危うい状況になりました。そこで、大学のあり方を根本的に見直し、「資格取得」を前面に打ち出すことにしました。

それを支えているのが薬学部の躍進です。原発事故以来、志願者が落ち込む中、資格につながる薬学部だけはあまり影響を受けませんでした。もともと、最初の卒業生が受験した2013年以来、薬剤師国家試験の合格率は常に全国平均を上回っていましたが、2016年3月には全国73大学中、第1位の98・7%を達成しました。

好成績には理由があります。初年次教育に力を入れ、勉学意欲の向上や学習習慣の確立を目的とした「イグナイト教育(*)」を低学年で積み上げているのです。また、薬学教育に不可欠な化学の基礎学力を補う「クラムスクール」を1年次に設け、演習問題の反復学習で徹底した知識の定着を図る「ファーマドリル」を2年次から開始します。さらに全学年で「チューター制」を導入し、6年間を通してきめ細かな指導を続けてきた成果が、合格率に表れました。

*イグナイト教育:PBL やTBL を中心に、自分の力で能力を高めようというやる気に火をつける(ignite:点火する)ことを目的にした教育。

地域で活躍する人材を教養学部で育成

2015年度には、科学技術学部の募集を停止し、人文学部3学科を教養学部地域教養学科に改組しました。教養学部は、「地域基盤型職業人」の育成を目標に掲げ、地域社会を支える人材に求められる、汎用的な職業能力の養成をめざしています。資格系の学部と異なり、教育成果が見えにくい分野なので、「メジャー制」を導入し、3つの主専攻と6つの副専攻から1つずつ組み合わせて学ぶことで、想定する進路に合わせられるカリキュラムにしています。

併せて、就職状況をわかりやすい形に可視化し、受験生や保護者にアピールしています。当面は、市役所・県庁以上の公務員への採用数、教員採用数、「日経225」に採用されている一部上場企業への就職者数をそれぞれ5人以上にする、「トリプルファイブ」戦略を展開する予定です。

看護学部を設置し医療系大学へ転身

さらに次年度は、看護学部も開設する予定です(設置認可申請中*)。実は、本学が立地する福島県には、4年制の看護学部が1校しかありません。そのため、本県より人口の少ない県に比べて、18歳人口千人当たりの看護学部受験者数がきわめて少なく、看護師に対する潜在的な需要がかなり高いことが予想されます。看護学部の新設は、震災前からあった地域の要望で、地域への貢献を標榜する本学では、これを改革の大きな柱の1つとして位置付けています。

看護学部が認可されれば、次年度から薬学、看護、教養の3学部体制になり、本学は医療系大学へと大きくシフトします。確実に到来する超高齢化社会を見据えれば、医療保健分野の人材育成は急務であり、本学の改革は、その方向に合致します。

今後は、女子寮の建設などキャンパス環境の整備に力を入れていくと同時に、全学的な初年次教育の強化なども進めていくつもりです。本学の新たなブランドを確立させるため、新たな医療系の学部・学科の開設も視野に入れながら、地域の期待に応える大学としての役割を確実に果たしていきたいと考えています。

*看護学部は2017年4月に開設されました。

山崎洋次やまざき・ようじ
1947年生まれ。1972年東京慈恵会医科大学卒。1978年筑波大学臨床医学系講師、1993年東京慈恵会医科大学助教授、1996年同教授、2007年いわき明星大学教授、同薬学部長を経て、2013年より現職。専門は小児外科学。

取材・文/仲谷宏 撮影/柳田隆司

2020年 大学入試改革特集