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教育方法を転換し
「懸命なる若者」を育成する

教育改革によって学び合う風土を醸成し、
他者理解への扉を開く

成城大学
学長 戸部順一

出典:『Between』2017年2月-2017年3月号

高等教育問題の根本は大学と社会との関係

大学は社会の共同体の一部ですから、社会には大学に何らかの期待があります。一方で、大学は高度な専門的知見を生み出すことが義務づけられ、それを若い世代に教授するという、普遍的な役割も担っています。この社会からの要請と、大学が伝統にのっとって提供している教育との間に何らかの乖離が生じたときに、高等教育の問題が顕在化するのです。

例えば現在、社会は大学に対して、人材育成機関であることを強く求めているように見えます。企業をはじめ、社会の各層で活躍できる人材に必要な能力を、大学が育成することに大きな期待を寄せています。国民の付託を受ける形で文部科学省も、グローバル人材育成を重視した大学教育へと転換を図ろうとしています。

ただ、ここで危惧されるのは、一色に染まりがちな日本人の国民性です。多様な価値観が共存する共生社会の実現が望まれているにもかかわらず、大学教育をグローバル化という一色だけに染め上げてしまっていいのか、考える必要があるでしょう。

この問題は、古くからある研究と教育のバランスの問題と同根と言えます。学問的な興味に端を発した自由な発想による研究の深化と、社会が求める人材を輩出する教育のあり方との関係は、時代の変化とともに常に変化します。社会の要請に応えつつ、大学本来の役割をどう貫くのかが、各大学に問われているのです。

変容した進学者層に対応する教育方法を

少子化と進学率上昇への対応も、日本の高等教育が抱える課題の1つです。18歳人口が減少する中で大学の入学定員は増え続け、以前は大学に行かなかった層が進学し、目的意識の希薄な学生が増えてきました。この層は積極的な学びへの意欲が低い傾向にあるため、教育方法を大きく転換する必要が出てきました。

そこで、近年、注目を集めるのがアクティブ・ラーニングという教育方法です。学生に授業を楽しいと感じさせ、積極的な参加を促す教育方法の開発は、現代の大学教育の重要なテーマと言えます。

大学の教養教育も再考するべきでしょう。ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは「博識は考える力を生まない」との言葉を残していますが、私は、教養とは幅広い知識ではなく、物事の本質を捉えて、判断する力だと解釈しています。とすると、教養教育は広範囲な科目群を用意するだけでなく、1つのことに一生懸命取り組ませて、本質に到達するような教育もすべきなのです。

さまざまな教育改革で学び合いの風土を作る

学校法人成城学園は、2017年に創立100周年を迎えます。そこで、次の100年へのビジョンを策定し、「第2世紀の成城教育」を掲げ、教育改革を中核にさまざまな改革を推進中です。

とりわけ力を入れているのが、初年次教育において、教育方法の転換を図ること。アクティブ・ラーニング型の授業を多数導入し、「懸命になる」ことを学生に経験させようとしています。

組織的なFDにも取り組み、教育力の向上を図っています。一例を挙げると、学生から評価の高い教員の授業の取り組みを冊子にまとめて共有しています。

また、教育イノベーションセンターでは、2017年度から「ピアチューター制度」をスタートさせます。これまでも学生がボランティアとして他の学生を教える授業はありましたが、それを全学の制度にし、「学び合い」の風土を根づかせようとしています。

他者理解と語学教育で国際教育の内容を拡充

国際教育に関しては、グローバル化の潮流に流されるのではなく、建学の理念に沿って拡充していきます。特に重点をおくのが「他者理解」の観点です。人種や民族による視点の多様性に限らず、特定のテーマにもさまざまな見方があることを学び、自分とは異なる世界への扉を開かせるのです。

例えば文芸学部の「文芸講座」では、1つのテーマを1教員ではなく6学科の教員がオムニバス形式で講義することで、他者の視点に気づかせる工夫をしています。

語学教育も2017年度から拡充させます。学部での専門教育とリンクした「読む・書く」中心の教育と並行して、「聞く・話す」中心の全学的な英語教育「SIEP(Seijo International Education Program)」を、本格的に開始します。これは、留学や海外インターンシップを目標に、その準備を通じて語学力の向上を図るものです。このほか、日本語を初歩から学べるプログラムを導入して、海外留学生の増加を図るとともに、学内の国際化も進めていきます。

グローカル研究を柱に研究ブランドを確立

研究力の強化にも注力します。具体的には、2016年度の文部科学省の私立大学研究ブランディング事業タイプB(世界展開型)に採択された、「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた世界的グローカル研究拠点の確立と推進」を、本学の研究活動の柱に育てていきます。

これは、本学が蓄積してきたグローカル研究(*)がもとになっています。現代社会が直面するさまざまな課題を改善する取り組みの一環として理想的な未来社会を構想し、その社会の実現に必要な新たな人間像を提示しようという研究です。この成果を発信し、世界レベルのグローカル研究拠点をめざしていきます。

数々の改革を成し遂げるには学長のリーダーシップが不可欠です。私は、アメリカのトップダウン型と、日本の集合知を重視するやり方を融合し、人の話をよく聞いたうえで最終判断を下し、その結果に責任をとるというスタイルでいきたいと思っています。

*複雑さを増す現代では、世界的な課題がローカル化すると同時に、ローカル固有の課題もまた容易にグローバル化する。ローカル化とグローバル化は同時かつ相互に影響を及ぼしながら進行、浸透、拡大する。
両者の相互作用の下で形成される多様・多元・多層的な価値観の共存する未来社会(=相互包摂型社会)の実現をめざし、それを支える人と社会の実践原理を解明する研究を「グローカル研究」としている。

戸部順一とべ・じゅんいち
1951年神奈川県生まれ。1975年東京大学文学部卒。1978年同大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1983年同研究科博士課程単位取得退学。1994年成城大学文芸学部助教授。2001年同教授。同学部長などを経て、2016年から現職。専門は西洋古典学。

取材・文/仲谷宏 撮影/坂井公秋

教育改革・入試改革2020特集