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ベンチャー志向の教学改革で
質保証、国際化、地方再生へ

全学一丸となって全国トップクラスの教育拠点をめざす

福岡工業大学
学長 下村輝夫

出典:『Between』2017年5月-2017年6月号

工業系大学に必要なパラダイムシフト

日本の工業系大学における最大の課題は、パラダイムシフトの促進です。学内での閉じた工学教育から、世界的視野に立った社会と連動する工学教育へと、コペルニクス的転換を早急に行わなければなりません。この転換には、3つの側面があると考えています。

第一は教育の質保証(アクレディテーション)です。大学教育は、マス・エデュケーションから、パーソナル・ラーニング、あるいはアクティブ・ラーニングといったクリエイティブな教育へ、教員もティーチングからコーチングへと、大きく転換が求められています。そのためには従来とは異なる指標での、教育の質保証が必要になるでしょう。

第二は国際化(グローバリゼーション)です。大学教育を国際的な基準に合わせるためには、秋季入学や科目のナンバリングなどを導入し、教育プログラムの国際通用性を高めていく必要があります。その鍵を握るのが、教職員の意識改革です。教職員の意識をグローバル化していくことが、大学教育の国際化を推進することにつながると考えています。

第三は地方再生(それを引き起こすイノベーション)です。地方がその強みを生かして成長を続けるためには、科学技術を核とするイノベーションの創出が不可欠です。それには、大学と行政、企業が連携して、イノベーションを連続的に生み出していくエコシステムを構築していくことが重要になります。

大学発ベンチャーを改革の起爆剤に

これら3つの側面をクリアし、パラダイムシフトを促す典型的なしくみが、大学発ベンチャーです。なぜなら、ベンチャーを可能にする科学技術は、クリエイティブな教育によってこそ生み出されるものだからです。また、ビジネスの視点からベンチャー教育を問い直すことが、教育の質保証における新たな指標を提供するでしょう。

今やどの地域の産業も世界経済の影響を受けないものはありません。ベンチャーにより、連続的なイノベーションを創出するには、グローバリゼーションへの対応が必須となります。

このように大学発ベンチャーは、教育の質保証、国際化、地方再生の全ての面で、従来の大学の教育と研究を一変させる大きなポテンシャルを持っています。企業への技術移転をもって大学発ベンチャーを終わりにしてはいけません。上場してキャピタルゲインを得、それを教育と研究に還元するというサイクルにまで持っていくことが、パラダイムシフトを加速させるのではないでしょうか。

改革成功の鍵は経営理念と行動規範

本学の改革は、1997年度に始まりました。改革の前提となるのが安定した大学経営です。特に私学の場合、学生の安定確保が絶対条件。そのため、本学では、きめ細かな教育の徹底と、好調な就職実績の維持に努めてきました。

改革を進めるにあたっては、「For all the students(すべての学生生徒のために)」という経営理念と、「Just Do It !(即断実行)」という行動規範の浸透に注力してきました。当初は、経営を前面に出して改革を進めることへの反発もありましたが、理事長自ら毎週1回、意識変革を促すペーパーを全教職員に配布し、部課長会でも毎回話すことで、教職員はもちろん、警備や清掃のスタッフにまで経営理念や行動規範が浸透していきました。

取り組みの成果が表れてきたのは、改革に着手して10年目の2007年度入試においてでした。5年連続で減少していた志願者数が上昇に転じたのです。以後2017年度まで11年連続で志願者数が増加し、V字回復を果たしました。

全教職員が参画しマスタープラン策定

もちろん、スローガンだけで改革はできません。1998年度から中期経営計画「マスタープラン(MP)」を策定し、それに沿った具体的な「アクションプログラム(AP)」を実行することで、改革を進めてきました。

MPは5年計画ですが、3年経過後に一度見直し、変化に即応できるようにしています。理事長以下18名の委員で構成されるMP策定委員会への教職員の陪席は自由で、意見も表明できます。また、議事経過も全教職員にメール配信しています。このように全員参画によって合意形成を図り、議論をオープンにすることで、改革を阻害する「聞いていない」という声をなくしているのです。

MPが策定されると、各部門で1年計画のAPを立案します。APは改革の特別予算と連動しており、予算は計画立案者が数値目標を掲げて申請します。予算額の妥当性は他の立案者からも評価されます。年度の終わりにはデータに基づいたレビューを行い、PDCAサイクルを回しています。

教職協働を深化させる教職員の海外研修

MPに基づいた改革を始めて20年目の2017年度入試では、過去最高の志願者数を集め、全募集人員に対する総志願者数も初めて10倍を超えました。

また、経営的にはキャッシュ・フロー10億円以上、帰属収支差額1億円以上を維持しており、2つの格付会社からそれぞれ、「A」「A+」の格付も取得しています。すでに各種のランキングで九州の私大トップになっていますが、今後は入学者の学力レベルを高める方策を進めていきます。

さらに改革を加速させるため、昨年から若手教職員を米国の協定大学に派遣し、大学教育を強化するための能力開発に取り組んでいます。将来的にはこうしたしくみに学生を巻き込んでPBLを展開し、本学発ベンチャーを立ち上げて地方再生に寄与できるような、全国屈指の教育拠点をめざします。

下村輝夫しもむら・てるお
1945年佐賀県生まれ。1971年九州工業大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了。1971年九州芸術工科大学(現、九州大学芸術工学部)助手。1983年九州工業大学工学部講師。同助教授、教授を経て、2003年同大学学長。2010年より現職。専門は電子工学。

取材・文/仲谷宏 撮影/南弘幸

教育改革・入試改革2020特集