大学研究知ろう!
大学の研究って一体何を学ぶんだろう?
大学の研究室にインタビュー!

人体に順応するゲルで
未来の医療を変える
活路を見いだす

工学系統/生物工学
北海道大学 ソフト&ウェットマター研究室

金属やプラスチックに代わる生体材料をめざしてゲルを開発

「ハイドロゲル」は、内部に大量の水を含んだ柔らかい素材である。「身近なものではゼリーや豆腐、さらには人間の筋肉やけん、軟骨などもハイドロゲルです。含水率が高いハイドロゲルは、60%が水分でできている人体となじみがよいと考え、人工軟骨や人工靭帯じんたいなどの生体材料として活用できないか日々研究しています」と中島祐准教授は研究の背景を説明する。

新たな可能性を切り開くため、衝撃にも耐えられるハイドロゲルを開発した。その一つがガラス繊維とハイドロゲルを組み合わせた“コンポジットゲル”。自由に曲げられる柔軟性を持ちながら、引裂破壊エネルギー(引き裂くために必要な力)は金属の5倍に相当し、成人男性2人で引っ張り合っても裂けることはない。破れにくいことから、服飾への応用も期待される。

これまでの常識を覆した革新的なDNゲル

再生医療への応用に期待が高まっているのが、もろいゲルとよく伸びるゲルを組み合わせて誕生した“超高強度ダブルネットワークゲル(DNゲル)”。水分を90%含みながら、ハンマーでたたいても壊れないことが最大の特徴だ。同大学医学部との共同研究では、ウサギの軟骨欠損部にDNゲルを埋め込んだところ、軟骨が自然再生した。それまで一度損傷した軟骨は再生しないといわれていたが、世界初の成功例として大きな注目を集めた。

結果が目に見える面白さ変幻自在な材料が未来を変える

ちょうの形に圧力を加えて変色した様子

この研究室では、ほかにも特殊なゲルが誕生している。その一つが刺激に応じて色が変わる“PDGIゲル”。

圧力や温度、pH(酸性・アルカリ性)によって、赤や青、緑などに変化する。

この特徴を医療分野でどのように応用できるか研究を進めている。

「ゲルは縮んだり、硬くなったり、濁ったりする面白い材料です。研究者はクリエイターの一種。感性を生かせば、新たなゲルを発見・創製できます」

研究に必要な文理の力

この研究につながる科目・教科

生物の知識はゲルの開発に生きる。英語の論文を理解するには、読解力を身につけておくとよい。ゲルの創製には設計図が必要なので、芸術などの授業で順序立てて作品をつくる経験は、この研究にも大いに役立つ。

学生の研究テーマ

学生が取り組むテーマは、ゲルの強度を上げるための研究、新たなゲルの開発が主流だ。この分野では生物の構造からヒントを得る「バイオミメティクス」がトレンドになっており、学生も研究に取り入れている。

学問の手引き

生物工学は、生物のしくみや機能を社会や人間のために生かす技術や理論を研究する学問だ。新素材の開発、改良や、植物・動物の品種改良、人体に有用なホルモンをつくる微生物の開発などテーマは幅広い。