大学研究知ろう!
大学の研究って一体何を学ぶんだろう?
大学の研究室にインタビュー!

新薬開発につながる
天然有機化合物の全合成をめざし
研究に取り組む

薬学系統/薬学
北里大学 薬品製造化学教室

人体に有用な天然有機化合物を人工的につくる

「ノーベル賞を受賞した北里大学特別栄誉教授大村智博士の研究でも知られるように、天然に存在する菌や植物、動物からとれる天然有機化合物には、医療に役立つ、人体に有用な化合物がたくさんあります」と長光亨教授。ただし、天然有機化合物には、培養しても量がつくれなかったり、人体に悪影響を及ぼす毒性があったりといった弱点があるものも少なくない。毎年、治療薬として有望な天然有機化合物は見つかるが、その弱点によってほとんどが新薬開発につなげられていないというのが実情だ。

そこで、この研究室では、市販の化合物から人工的に天然有機化合物をつくる「全合成」に取り組んでいる。人工的に化合物をつくることで、必要な成分を十分に供給することができるようになる。また、毒性を下げたり活性を高めたりといった有効な化合物に構造を変える研究が可能だ。実際、研究室の成果によって、新薬開発に向けた動物実験の段階に進んだ化合物もある。

実験成功までに半年かかることもその分喜びは大きい

全合成は、実験すればすぐにできるというものではない。一つの合成には、数年かかることがほとんど。実験がうまくいかないことも多く、なかには半年間、同じ実験を続ける場合もある。時間を要する研究のため、研究室では、先輩から後輩へと、縦にテーマを引き継ぎながら実験を進めている。

苦労が多い分、全合成を達成した喜びは大きい。研究室ではかかわった学生全員で祝賀会を開き、会で使用した瓶に合成した構造式を書き残している。

道のりは厳しくとも、その苦労がいつか人々の治療の役に立つ。その思いを心に、日々研究に取り組んでいる。

研究室の成果から新薬開発が進んでいる化合物も

【マウスを用いた実験結果の図版】

大学内で動脈硬化などの高脂血症に効く薬剤が発見された。研究室では、その化合物の構造を様々に変える研究に取り組み、活性を大きく上げることに成功。動物実験により有用性も認められ、現在、新薬につなげるための開発を進めている。

根気強さと前向きな姿勢が実験を支える

何度条件を変えても、実験がうまくいかないことも多いという。失敗が連続するとさすがに落ち込むが「でも後ろ向きはよくない」と、学生たちは気持ちを奮い立たせるそうだ。つまずいても自分から前を向く、セルフコントロール力も身につく環境だ。

研究に必要な文理の力

この研究につながる科目・教科

研究を進めるうえで基礎になる数学、化学に加え、学部内には、物理系、生物系の研究室もあるので、物理、生物も理解しておきたい。また海外の論文、文献を読むためには、英語力も重要だ。

学生の研究テーマ

北里大学が所有する有用な天然有機化合物からテーマを決め、全合成と構造活性相関の研究を行うことが多い。その結果を企業にアピールし、企業とタイアップして進めることもある。

学問の手引き

薬学は治療に役立つ薬に関する研究・開発を行う。医療をサポートする薬剤師養成課程と、新薬をつくる創薬・製薬の二つに大別される。どちらを学びたいのか、学びの内容や自分の志向性をきっかけに考えよう。